先月号では、幡随意(ばんずいい)上人と龍女のお話をしました。今月はそのつづきのお話です。
幡随意上人はある夜、ひとりお寺の本堂でお念仏をお称えしていました。その時、突然、変わった顔をしたおじいさんが目の前にやってきました。師は不思議に思い、
「どなたですか?」
とたずねると、
「私は龍神です。私の妻である王誉妙龍はあなたの導きによって阿弥陀さまの世界に往生しました。私はその夫で、妻の勧めによって救われたいと思いましたが、過去に犯した行為の報い、そして阿弥陀さまとのご縁が浅い為に、いつまでたっても苦しみの生活から抜け出すことができません。阿弥陀さまに救われた私の妻がうらやましくてしかたがありません。上人どうか私にもお念仏の教えと、十回のお念仏をお授けいただけないでしょうか?」
上人「あなたは今どこの池にお住まいですか?」
「私は始めはつつじヶ池に住んでいました。妻の妙龍が阿弥陀さまの世界に往生した後は池を子にゆずり、私は今、青柳の池に住んでいます。」
「わかりました。では龍神よ、これから私が言うことをよく聞きなさい。あなたの妻、妙龍はすでに往生しています。その妻に先を越され、あなたはいまだに、苦しみの生活をおくっている。それはあなたが言うように阿弥陀さまとのご縁が浅いからです。しかし龍女の縁によって、私の所にきたことはとても尊いことです。かならず、あなたは救われるでしょう。ひとまず池にお帰りなさい。明日私の弟子をその池に遣わし、念仏の奥義をお伝えいたします。」
龍神は喜びながら去っていきました。
翌日、弟子の中でもっともすぐれている随波(ずいは)上人が、龍の住む池のほとりにいき、
「私は幡随意上人の使いで来た者です。王誉妙龍の夫の龍神よ、はやく出てきなさい。念仏の奥義をお伝えいたします。」
大きな声をだし龍に呼びかけると、池の水が急に波立ち、水の中から大きな龍が、角のある頭をふりあげ、口より火を吹き現れました。
随波上人は小舟にのって、波を恐れずそばにいきました。
「これから授ける念仏の奥義は、幡随意上人より授けられたものを、私を通して授けるのです。」
それを聞いた龍神は角を分けて涙を流しながら、頭を下げ上人の舟によせました。角と角との間に杖をあて上人が念仏の奥義を伝え、十回の念仏を授けようとしたとき、分かれていた角を合わせて拝受しました。
「これからあなたに仏さまの弟子としての名前を授けます。そのお名前、戒名は「龍誉高天」です。」
その名を授け終わると、龍は水の中に消えていきました。
しばらくしたある日、幡随意上人の前に菩薩さまが現れました。
「私は前に上人に導いていただいた龍誉高天です。おかげさまで阿弥陀さまの世界に往生することができました。これからは師のご恩に報いるため、念仏の教えを守護し、また上人さまとのご縁によりて、念仏の教えを信ずる家を私と妻の王誉妙龍と共に常に、火災、水難、一切の災難を払います。
そう言い終え、去っていきました。
(次号につづく)