先月号のつづき。
幡随意上人に危険がせまっています。それを龍が知らせたところ、上人はまず弟子を先に他の地に逃がそうとしています。弟子の一人が、
「私たちはお師匠さまのそばにいてあなたを守ります。それで殺されたとしてもかまいません。」
すると上人、
「心配しなくてもいい。私は殺されたりはしないよ。私はこれより武州(今の東京や埼玉)に行こうと思う。もし今私と行動を共にすれば見つかりやすい。そして一緒に殺されてしまうかもしれない。もし私とは別に行動すれば私の弟子とは気づかれにくいだろう。だから先にこの地を離れなさい。私もかならず後からこの地を離れるから。」
そういうと弟子たちは喜び勇んでで去っていきました。
その弟子達の出発を見届けた上人もしばらくして出発しました。
少し歩いた所で、一人のおじいさんが立っていました。
「上人、私は今この姿をしていますがあなたの弟子、龍誉高天です。どうやら大勢の者があなたをおいかけて来ています。私はここにいて、彼らの足止めをします。上人ははやく先へ進んで下さい。」
上人は慌てて歩み出しました。そんな時、一念義の者たちが、竹槍などの武器を持ち上人がいた善導寺に集まりました。しかし、お寺の中を探しても上人や弟子達は一人もいません。
「どうやら、逃げたようだな。まだ逃げたばかりだ。きっと追いつくはずだ、行くぞ。」
そういって、大勢の者が上人の後を追いかけはじめました。
しばらく進んだところで、山の道に入りました。すると今まで晴れわたっていた空が、急に暗くなり、黒い雲でいっぱいになり、どしゃぶりの雨が降ってきました。雨で前がまったく見えません。彼らは前に進みたくても、雨の激しさに前に進めません。そこはちょうど先ほど上人が龍誉高天と会ったところでした。龍は雨をあやつることができます。この雨は龍誉高天が降らせたものでした。
その間に上人はどんどん進んでいき、川までたどり着きました。しかし、川は水かさが増し激しい流れになっています。
上人「これは渡るのは無理だな」
と困り果てていました。そこに美女が一人そばにやってきました。
「私は川を渡る案内をしているものです。私の手をにぎり、ついて来て下さい。」
そう女性が言っていますが、上人はためらっています。
すると女性が
「私はあなたに救われた王誉妙龍です。あなたの災害をはらう為にここにやってきました。。」
上人「そうでしたか。では私を向こう岸に導いてください。」
女性「わかりました。」
そういうと姿を消しました。しばらくすると川の水がどんどんあふれてきます。そして川の中から水しぶきをあげて、龍が水の中から頭を振り立てながらあらわれ、火を吹きながら、上人の前の岩の上に頭をおきました。
上人はその龍の頭の上にのり、角につかまり、南無阿弥陀仏と称えています。龍は頭をあげ、いとも簡単に向こう岸に渡しました。上人は王誉妙龍にお礼と別れをつげ、武州に旅立っていきました。
一念義のものは、大雨に足止めをくいましたが、その後、雨がやみなんとか川までたどり着きました。しかし、川の水を見て驚きます。
「幡随意はこの激しい流れの川を渡ったのか。この川を渡れるような者を私たちは相手にしていたのか。私たちがかなう相手ではない。、もうあきらめよう。そう考え彼らは帰っていきました。
上人は無事、武州に着き、その地そして、さらに全国でお念仏の教えを弘めました。
(おしまい)