仏教の古いお話を一つ紹介するね。
昔、ある国に罪人の男がいました。その男は死刑が間近に迫って来たのを恐れて、番人のすきを見て牢屋から脱走しました。しかし、牢屋の番人がその事に気づき、凶暴な白い象を放って、その男の後を追わせました。
男は長い間、牢屋の中にとじこめられていたこともあって、体力はなく、足がもつれてはやく走る事ができません。そうこうしているうちに、もう象がすぐ後ろに迫っていました。象はその男をふみつぶそうとすごい勢いです。それを見て男は必死に逃げています。
すると、男は古い井戸を発見しました!
「ここへ逃げ込めば助かるかもしれない。身を隠すにはもってこいの場所だ」
男は、井戸にたれ下がっている一本の細い草の根っ子を発見。ただ、それは頼りない細い根っ子です。しかし、すぐ後ろに象が迫っているので、その根っ子をつたって井戸の中へ体をすべりこませました。それは、象が井戸に到着するのと、ほぼ同時でした。
「とにかく、これでひとまず安心だ」
そう思い男はほっとしています。
ところが、男は井戸の下を見て、あーっ! と驚きます。なんと、一匹の大きな毒蛇が真っ赤な舌をチョロチョロ出して男が落ちてくるのをまっているのです。上には象、下には毒蛇、男は絶対絶命のピンチです。男はなすすべがなくそのまま、必死に根っ子に捕まっています。
そのとき、かすかに上の方から、カリカリ、カリカリと音が聞こえてきます。捕まっている草の根元で何かが動いています。
なんと、ねずみがその根元をかじっているではありませんか。
「まずい、このままいけば、井戸の下へ落ちてしまう」
男はおそろしくて体がわなわなふるえきました。下には毒蛇、上には象、しかも、ねずみが根元をかじっている。男はどうする事もできず、ぼーっと空を見つめています。
つづく