近畿支部教学布教研修会
佐野 成昭
6月2日(日)京都市京都山科念仏道場にて、三島健稔師(東京大学客員研究員)より「或る最先端科学から観た祈りについて」と題してご講義を賜りました。10名の出席者でしたが、中味の濃い重要な内容でした。
時間割りは、午前10時より念仏、11時より12時迄講義、京弁当で昼食、1時念仏後、1時45分より、途中休憩を入れて4時10分迄2席講義、4時40分迄質疑応答を行いました。5時に終了しましたが、それでもしばらく残って先生と熱心に話されている方もおられました。
三島師は、現在或る種の最先端科学研究が宗教に接近しており、或る最先端科学者が如来様や神様に対応するものを、サムシング・グレートと呼んでいること等を話されました。大変良いお話でした。
お話の内容を私は、次のように理解しました。
現代の教育は理性教育中心ですが、情感の教育を重視する必要がある。科学であればすぐ信用される。なぜか?それは、再現性があるとされているからである。また、信頼出来るとされる。が、それは科学者に権威があると思われているからなどである。
しかし、科学は絶対でも不変でもない。発生以来修正され続け、それによってより確かなものになっているのである。例えば、ビッグバンで始まるとされる宇宙の歴史約137億年も仮説であって、始めと終わりは不明であると言います。
科学は、常に仮定、つまり定まった条件の範囲で成り立っている。
例えば、1+1=2 といっても条件があるので、(条件を変えれば)1+1=1 と表わされる世界もある。
現在、遺伝子の研究で各国がしのぎを削っている。その中で日本の村上和雄教授は、高血圧に係わる酵素「ヒト・レニン」の遺伝子解読に成功した。人は約60兆の細胞から成ります。1細胞には、23対の染色体があり、1染色体のDNAには約30億対の化学の記号が存在する。その中で遺伝子情報に係わる数は約2万8千個である。しかし、普通生きるにはその僅か2、3%位しか働いていない。村上教授は、その僅かの部分で笑いが遺伝子情報をオン(動き)とオフ(停止)に変えていることを発見した。実験では、47個の遺伝子がオンに、8個の遺伝子がオフになった。それが人の能力に影響する。祈りでも遺伝子に同じことが起こることが推測される。
また、歴代の会長の多くがノーベル賞受賞者または同等の学究であるスピリチュアリズムの権威ある研究会がイギリスにあって、人間は霊性と意と身体とで成り立ち、霊性を発達させ、無限向上することが望まれているとしている。霊性は、身体に生命を与え続けるものでる。また、奉仕をすることが人格を向上させるとする。
光明主義に対応づけると、主として生きることに係わる一切能が発達してから霊性に係わる一切智は発達し始めることとなり、食作法の「アナタの霊の糧によらざれば法身慧命はぐこと能はざるものなり」を彷彿とさせます。
午後の席
遺伝子が変わる程に有効に祈るには、どうした祈り方が良いのでしょうか?
エミール・クーエ(1857-1926)は、「日毎に、私は、あらゆる意味で益々良くなっていく」と就寝直前(脳波がα波やθ波になっている時)に毎日20回自分に言い聞かせるという自己暗示法が有効であることを発見し、それを治療に活用した。
また、脳波レベルの研究としては、澤木興道老師の坐禅中の脳波を測定した平井富雄東大教授の先行研究がある。それによって坐禅中の高僧の脳波がα波やθ波になることが判った。
- 脳波の知見によれば、心が安定している時即ち脳波がα波やθ波になっている時に祈ることが良い。その外、
- 短い言葉を繰り返すこと、
- 実現した姿を思い浮かべること、
- 切に思うこと
等が良い方法であると思われる。「切に思うこと」については、「切に思う事は必ず遂ぐるなり」と道元禅師の御法語がある。
ここでこれら四つの条件は、瞑想、禅、念仏(光明主義)と比較すると、念仏が一番近いと筆者は理解しました。
「歎徳章」(『礼拝儀』)にも「意【こころ】の所願に随いて其国に生ずることを得・・・」と記されているように、意【こころ】(漢字は心ではない意思の意)で切に思わなければならない。
祈りの目的は、単なる願望の実現を目指すか、未来に望むか、無限向上を目指すかなどに分かれる。
- 現世利益(単なる願望と自然教)
- 未来往生
- 無限向上(光明主義)
祈りの効果を知ってこれらのどれを選ぶかによって人生が全く変わる。世の中はこの一、二、三、の順に人は少なくないようだが、無限向上の三を選ぶことが望ましい。三は、光明主義(如来光明摂化主義)が該当する。
そして、光明主義の実践が肝要である。法然上人は「往生の業には念仏を先とす」と述べられるようにお念仏の実践が大切である。岡潔教授は、「実践だ!」と説いている。更に、光明主義の素晴らしさは、認識的一切智に至る道を示していることです。その一切智を円満に得ている方が釈尊です。我々凡夫は、迷いの道をぐるぐる回っています。しかし、凡夫から釈尊に至る線上の遥か上方に認識的一切智を得た、弁栄上人、法然上人、徳本行者、善導大師様などがおられると言われます。弁栄聖者が、「真理の終局に帰趣すれば佛界に入るなり」と語られるように仏界に入るのは自然のことであり、その故に易行と言われます。
今回の三島健稔師のお話で、科学は絶対完全なものではない。笑いが遺伝子レベルで影響を与えることが判っていること、同じように祈りが遺伝子レベルで影響を与えることが推測されること等が示された。祈り方の選択に科学的根拠が得られたわけである。そして、如来光明摂化主義の祈りが最も望ましいこと、更には、『法界観門』にも行境(至心に行をすることによって到達する境地)には筆舌の及ばないとあると結ばれ、光明主義のお念仏の実践が大事だと結論されました。今回の御講義は、科学という別の視点で仏教を捉え、興味深く皆様に好評でした。
合 掌