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聖者の偉業

聖者の俤 No.78 乳房のひととせ 下巻27 聞き書き 其の十

乳房のひととせ 下巻27

中井常次郎(弁常居士)著

◇8 聞き書き 其の十(つづき)

当麻山無量光寺にて
八月四日よりの十二光仏講義

 我々は生まれながら煩悩を持っているが、人々の持てる煩悩に軽重がある。業に善、悪、無記等の別あって、六道生死の苦を受ける。苦は業より来り、業は惑より生まれる。
 惑に見惑と思惑とありて見惑とは知識ある者の惑であって、これに十見ある。今はその中の五利使〔見惑の中の思想的な迷いの五つ〕を述べる。
身見――わが身に関する思い違いである。ヘッケルの如きは、人を造る物質そのものを霊魂と見ている。悩の細胞が霊魂であって、その外に霊魂というべきものを認めない。而して脳の細胞は生殖細胞の分列によって出来たものなれば、生殖細胞が霊魂だと見る。一つ一つの細胞に霊魂ありと主張する。肉体の外に霊魂なく、死ねば何も無くなるという。これは真理を如実に知らぬ迷いである。ヘッケルは身見の惑に陥っている。知識の無い者は、斯かる誤った理窟を固守せぬ故に見惑に陥らぬ。
辺見――一方片寄った考えである。これに断見と常見の二つ有る。人が死ねば霊魂も消えるという如きは断見である。又、人の霊魂は、どこまでも人である。犬は何度生まれかわっても犬だという如きは常見である。これらは共に真理でない。
 物質を集めるものは霊魂である。霊魂のある処に物質が集まる。蜜蜂有れば蜜を集める。王蜂のいる処に群蜂が集まる。霊魂は少なくならぬ。若し人間の霊魂がいつまでも人と生まれるならば修養の必要が無い。しかるに事実は、霊魂に異熟性あって変化し、人は常に人として生まれず、鬼とも仏とも成る故に修養を怠ってはならぬ。
邪見――聖人の教えを否定し、真理をくらます考えを邪見という。因果の道理を否定する如きは邪見である。
禁見――苦行に因って解脱が得られるという如き迷いをいう。印度に事牛外道、事鶏外道等の五外道がある。牛や鶏に仕える事により成仏せんとする。かくの如くせねばならぬという迷いの条件に捕われるのを戒禁執見という。キリストの肉(パン)と血(赤い葡萄酒)によらねば助からぬといって、パンを食い、酒を飲んで天国を願う如きは真理でない。キリストの肉と血は、神によって霊化された、吾等もまた、キリストに習って、己が身と心とを神に献げて霊化されん事を願うはよい。
取見――先入主〔=先入観〕に捕われる事。宗教において、邪教でも先に入れば、後に真理を教えてもそれを信ずる邪魔になる事がある。

思惑の五鈍使(ごどんし・貪、瞋、痴、慢、疑)

 思惑は本能的惑であって、生きんとする欲望より起こる生理的衝動である。
――生きんが為に役立つ物が手に入った時、病的に我が物として貪る事。
――生命、財産を妨げられる時に起こす怒。
――人生の真意義を知らず、徒らに生きる相。
――うぬぼれ。人は誰でも、自分に何かとりえが有ると思っている。もしこのうぬぼれが無くなれば、人は死ぬ。これ有るがため、己が生命を保護して生きる。うぬぼれは凡夫活動の原動力であり、心の糧である。
――真実を見る明なき故に、是非、取捨に迷う事。
 
見惑(五利使―身見、辺見、邪見、禁見、取見)
思惑(五鈍使――貪、瞋、痴、慢、疑)
 
業に三障あって、光明に背き、六道生死の苦を受ける。
三障――業障、罪障、煩悩障
 業障とは過去世において犯した業の障りである。如来心と合一できぬのは、この障りの為である。人は皆、この業のために先天的に苦を受けねばならぬ。
 業障に黒障、黄障、白障の三種がある。これらは、仏道修行の程度により、業障の薄らぐ次第を示したものである。
 罪障とは現在犯しつつある業の障りである。迷いの為に煩悩を起し、不急の事を争い、急ぐべき事を知らずして徒らに明かし暮らし、光明に向かわず、生死の苦を受ける。
 煩悩障とは未来に造罪の障りである。
 これらの障りは、念仏によって、焚き尽される。

光化の心相 (宗教心理論)

 如来         凡夫
  清浄光――五根浄化  感覚――汚染
  歓喜光――感情融化  感情――苦悩
  智慧光――智見啓示  知力――無明
  不断光――意志霊化  意志――罪悪   
 今までは宗教の形而上論であった。今は直接、我等の精神に及ぼす如来光明の働きを論ずる。即ち宗教心理論である。普通、心を知情意の三つに分けるが、今は四つに分ける。
 心に迷いと悟りとある。迷いに三善と三悪とあり。悟りに四聖ある。
 生まれながらの我等の感覚は汚れ、感情は苦にして、知見は闇く、意志は罪を造る。如来の光明は我等の感覚を浄化し、感情を融化し、智見を開き、意志を霊化する。
 人は苦を逃れんとして、外界の物で治そうとする。苦を感ずるものは心なれば、心を改めなければ楽とならぬ。

〈つづく〉

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