植西 武子
本真尼との出会い
平成24年11月30日、期せずして愛知県・碧南市の法城寺を訪ねたとき、住職の斉藤(石川)乗願上人から法城寺と弁栄上人のご縁についてお話を伺いました。その中で当時、当地で非常に活躍されている尼僧さんがおられたことをお聞きしました。大変興味深く受け止め、もっと知りたいと思うようになりました。
そして平成25年12月5日に再び法成寺を訪ねた時、本真尼様について更に知りたい旨を告げますと、一冊の本『颯田本真尼の生涯』(藤吉慈海著:春秋社)を光明園に寄付下さいました。それを読んで行く内にその偉業に敬服するばかりでした。真の念仏者の生き方に深い感動を覚えました。
あこがれの三女性
- フローレンス・ナイチンゲール(1820~1910)
- 私は幼少の頃、白衣の天使に憬れをもちました。大抵の女の子は「大きくなったら看護婦さんになりたい」という夢を持ったものでした。しかし私の場合は少し違っていました。それは多くの看護婦を率いてクリミア戦争で傷病兵の手当に奔走したその生き方に強く惹かれました。教科書かそれとも本であったのか、定かに覚えていませんが彼女の物語に触れて世の人のために尽くすその姿に、子供ながらに自分も将来かくありたいと願いました。
- マザー・テレサ (1910~1997)
- 通称このように呼ばれていますが、本名はアグネス・テレサ。ユーゴスラヴィア生まれのカトリックの修道女でインドのコルカタ(カルカッタ)地方で貧者、孤児、病人の救済に生涯を捧げた偉人です。1979年には「ノーベル平和賞」が授与されています。「~の母」と慕われるほどの彼女の献身ぶりに畏敬と憧憬の念を禁じ得ませんでした。自分も仕事で中堅として働いていた頃で、ニュースで報じられる彼女の活動から多くを学び、全てスクラップ・ブックに納めたものでした。
- 颯田本真尼(1845~1928)
- そして人生の終盤になって第三の女性に巡り会いました。もう少し早くに出会いたかったと云う思いですが、残された時間を彼女の足跡を辿るために使いたい気持ちで溢れています。この人の生き方こそ、「献身」そのものでした。
この三聖女の共通点は「献身」(devotion)の一語に尽きます。何故か中学生の頃から「devotion」と云う単語が脳裏にインプットされておりました。
本真尼の施行とは
本真尼の施行はその期間、行動範囲、施行量、等全てにおいて莫大なものでした。
その本(『颯田本真尼の生涯』藤吉慈海著:春秋社)の巻末にある年譜によると、若い頃から齢80才に至るまで、殆ど毎年、しかも年一度ならず、数回に亘って多方面に布施活動に出向かれています。
その年譜は当時も地震、津波、風水害、火災、噴火等の災害が多かったことを物語っています。本真尼の足跡は北は北海道の函館から南は九州の鹿児島(桜島)、さらに離島に至るまでの全国各地に及び、支援、激励されています。まさに超人的な活動でした。
ただ特筆すべきは、本真尼の布施行は「三輪体空」に徹したものでした。
布施行の「三輪体空」とは
その著『颯田本真尼の生涯』によれば、「三輪体空」とは①施す人、②施しを受ける人、③施しの品物の三つがこだわりなくなされた時、その布施行は立派なものになると説かれています。換言すれば、「この三つが空に住して無執清浄の施しでなければならない」。
更に分かり易く云うならば、「単なる財施や罹災者の救済では慈善事業に終止する。浄土への結縁が重要な要素となる」と云うことです。
「本真尼は施しを通してお浄土への同朋同行を一人でも多く結縁したいと云う悲願をもってなされた」と記されています。
ここに至り、布施行の難しさを再認識することになりました。いずれにしても、布施をするには、それだけの徳を積まねばならない。それには念仏に専念すること以外に方法はないと肝に銘じました。今からでも、この年だからこそ、急がねばならないと深く受け止めました。
関東方面でのご縁
本真尼は愛知県の現在の吉良町に生まれ、布施行で全国を回られる時以外は愛知県・吉田町の徳雲寺に本拠を置き、尼僧の教育に専念し、84才で当地で往生されました。
ところが、記録によりますと、59歳の時に関東方面での布教を懇願され、現在の神奈川県・藤沢市・鵠沼に浄土宗説教所として慈教庵を設立されたとありました。
鵠沼は湘南地方の別荘地、高級住宅街として古くから有名な所です。さる熱心な女性が自分の別荘地を提供され、多くの著名人も帰依されていたようです。
インターネットで調べてもらうと現在も尼寺、本真寺として存在していました。私の住居から30分~40分の近い所です。本真尼が招いて下さっているように感じ、ご縁の蓮の華がぽっと音をたてて開いたように感じました。是非近々に訪ねたいと思っています。
女性の力、華開く時
颯田本真尼についての情報は私にとっては今のところ、この一冊の本に限られています。しかし、この一冊に著者の藤吉慈海氏の深い思いが行間から溢れ出ています。
この時代にこれだけの偉業を成し遂げた女性が存在したことを知り、「ノーベル平和賞」の域を遥かに超えた、次元の高い功績に感服するばかりです。
科学文明の発展した今日に生きる一人として、この先人に恥じない生き方をしたいものです。当時より遥かに豊かな時代に生きて、古い束縛から解放された女性、生きる力の溢れる女性、今こそ世のため、人のために尽くせる力を結集して頑張りたいものです。 そして「平成の本真尼」の出現を心から願っています。
次号への予告
九州の豊前善光寺の菅野眞慧尼さんはかねてより颯田本真尼について研究し、あちこちゆかりの地を訪問されています。既に颯田本真尼に関心をもって取り組んでいる若い方がおられたことは非常に頼もしく、うれしいことでした。次号で更に詳しく、お話を展開して下さることを期待しています。