光明の生活を伝えつなごう

光明主義と今を生きる女性

光明主義と今を生きる女性 相対していることへの気づき

矢野 美紗子

今回は、上手く言語化できているか不安な段階の私の思いを寄せさせていただいて、今の私の拙い理解に皆様のご助言などを頂ければ、と勝手ながら考え、少しばかり「迷走」にお付き合いいただきたく思っております。以下は私の呟きであります。

人間というのは、社会的な生き物である。自分一人の力で成長するのではなく、両親、先生、友人…様々な社会的なつながりの中で学び、大きくなっていく。言い変えれば、絶えず社会から影響が及んでいるという意味で、人は社会的なのである。人は生まれ落ちたときから周囲(狭い意味の社会)から様々な影響を受けていて、それぞれが生まれ落ちた国、地域、文化などのもとで育つ。分かりやすいものでいうと、言語や常識、慣習などがその典型的な例である。人はその社会での正しい振る舞い方や社会生活の営み方を学ぶ。つまり、人が社会生活を送るには、ここで言う周囲を取り巻く人々や環境など「相対している対象」が必要だということは間違いないだろう。

話は一転するが、私には、高校生の時、悶々とした「生きづらさ」を感じていた時期があった。というのも、自分の性格や考え方が、高校を卒業する頃、なんと言葉で表現すれば良いのか適切な言葉が見つからないが、性格が大きく変わってきていたような時期があったのである。こころの中で起こっている変化についていくのは、当時の私にとってはかなり負担であった。文字で表現すると大げさになるが、「自分という存在の理解に苦しんでいて、自分を見失っているような不安な感覚。私が私であるのはどうしてか。」といった漠然とした問いに対して、必死に答えを見つけたいと模索しているような時期であった。今振り返ってみると、必死に自分の内側だけに目を向け、自分という存在の確証が欲しくて、もがいていたように思う。あれはきっと、思春期独特の生きづらさだったのだろう、と「あの感覚」の謎を解明しようとしたり、後から振り返ることはしなかった。
しかし、つい最近、あるシンポジウムで紹介されていた、福田恆存著『人生この劇的なるもの』を読んだ時、何となくヒントになる表現があった。それは、「人間は、誰しも演じている。」という見方だ。これは、なにも自分を偽っているということでは決してない。人には与えられた社会的な役割があって、その役割を演じている、ということだ。家族と一緒にいるとき、職場、友人と過ごすときなど、いろんな社会集団に帰属しており、その集団があってこそ、その人の立場が確立されている。例えば、ある一人の人が、「家庭の中では甘えていても、職場ではバリバリ仕事をして、友達といるときは職場での不安をもらす。」といったようなイメージである。多面性があるが、ここで私が強調したいのは、生活するうえで、どの状況でも自分の前には、自分を映す対象があるのだということに気が付いたことである。「人は自分を映す鏡だ」というような言葉も存在する。つまり、「自分に相対している対象」に目を向けることが出来たときに初めて自分が浮かび上がってくるのではなかろうか、と理解したのである。

ここまで、全くまとまりもなくつらつらと頭の中で考えていることを書き連ねてみたが、結局私が気づいたことは、自分のことを考えるときに、内側ばかりに目を向けていても、自分自身は浮かび上がってこないのではないのだろうか、ということだ。相対している対象とそれとの関係性に気付いてはじめて、自分が浮かび上がるのではないかと思い始めた。高校生の時は「内に、内に」というだけで、この感覚は全くなかったのだ。

どうして、今頃になって私がこのような理解をするようになったか。それはお念仏を通して阿弥陀さまの存在に目を向けるようになったからだと思う。お念仏は、阿弥陀さまと関係を結び、自らは阿弥陀さまの光明の中に生かされていることを再確認することでもあると考えている。お念仏をしているとき、必ず正面には阿弥陀さまがいらっしゃって、阿弥陀さまと私は相対している。いや、お念仏をしているときだけではない。常に、である。「如来の在さざる処なきが故に 今現に此処に存ますことを信じて 一心に恭礼し奉る」。常に阿弥陀さまとの関係性によって自分が生かされており、それは究極的には阿弥陀さまとの対話であって自分との対話でもある。

私は、大学からの自らの研究の土俵である社会学を通して「人間というのは生まれ落ちたときから、相対する対象がいてこそ生活を送ることができる」ということを学んだ。その相対している対象こそ、阿弥陀さまだと気づかせていただくことができた。阿弥陀さまと相対していることが、自分が存在する「根拠」である、と今では考えているのである。声を出して「南無阿弥陀仏」。これからも常にこの関係性を結んでいたい。

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