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発熱の文

発熱の文 28 好事魔多し


 好事魔事多しとは古来の諺、釈迦如来が六年修行いまに満願と成りて正覚を成就せんとするに先だちて、天の第六魔王が襲い来りて、有らゆる妨害を加えたけれども、それをついに降伏して正覚を成じなされたと録されてある。
 今皓月法尼が三経書写の大願、今に満願というに先だち病魔の為に襲われしと聞く。昔も今も相変らず好事魔多しの数に洩れぬ事、矢張り免れぬ世の掟とこそしられぬ。
 昨今の御経過云何に在らせ候哉。深く御案じ申候。願くは一日もはやく快方に相成候て、発したる願望の成就する様にと大ミオヤさまに祈り奉り候。唯々いかに切なき中にも、天地の中に独り慈悲深き大ミオヤを便りなされて、聖名を唱えて慈悲のみひかりのなかに、せめて心の安きを得らるるようにこそ祈申候。


現代語訳

 好事魔多しとは古来の諺、釈迦如来が六年の修行、今まさに満願と成りて、悟りを成就する直前、天の第六魔王が襲い来てあらゆる妨害を加えたけれども、その魔王をついに降伏させ、悟りを成就されたと記されています。
 今、皓月法尼が〔『無量寿経』、『観無量寿経』、『阿弥陀経』の〕三経を書写するという大願を今まさに満願という頃に、病魔に襲われていると聞きました。昔も今も相変らず「好事魔多し」〔との諺〕に例外はなく、やはり免れることのできない世の掟であると知るところです。
 昨今の〔ご病気〕の御経過はいかがですか。深く案じ申しております。願くは一日もはやく快方に向かい、発願しておられる書写を成就される様に、大ミオヤさまに祈っております。ただただ、いかに切なき中にも、天地の中に独り慈悲深き大ミオヤを頼りになさり、〔南無阿弥陀仏と〕聖名を唱えて、慈悲の御光の中に、せめて心の平安を得ることができるようにと祈っております。

解説

出典

『御慈悲のたより』上巻48~49頁、『ひかり』平成29年6月号参照

掲載

機関誌ひかり第727号
編集室より
行者(この文を拝読する者)の発熱を促す経典や念仏者の法語をここで紹介していきます。日々、お念仏をお唱えする際に拝読し、信仰の熱を高めて頂けたらと存じます。
現代語訳の凡例
文体は「です、ます」調に統一し、〔 〕を用いて編者が文字を補いました。直訳ではなくなるべく平易な文になるように心懸けました。
付記
タイトルの「発熱」は、次の善導大師の行状にも由来しています。「善導、堂に入りて則ち合掌胡跪し一心に念仏す。力竭きるに非ざれば休まず。乃ち寒冷に至るも亦た須くして汗を流す。この相状を以って至誠を表す。」
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